旅は骨折り?

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旅は骨折り?

「旅」を意味する英語 travel の語源は、ラテン語に遡る。旅行会社に勤務する方から travel の語源を尋ねられて、ちょっと調べてみた。

手元の「新英和大辞典」(研究社)によると、travel はフランス語の travail(仕事、骨折り)と関連する。この travail の語源自体は 300-700 年頃のラテン語 trepalium(責め道具)に遡るらしい。また trepalium は、数字の「三」を意味する tres (トレース)と「くい、棒」を意味する palus(パールス)とから成り立っている。三本の棒でどのように拷問したのか知る由もないが、いずれにせよ、「旅は骨折り」というわけである。

一方、ラテン語で「旅人」のことを viator(ウィアートル)という。これは「道」を意味する via(ウィア)というラテン語と関連した言葉 。via は「~経由で」という意味で、今でも英語表現の中でよく用いられる。例えば、VIA AIR MAIL (航空便)という表現はおなじみであろう。また、fly to Paris via London といえば、「ロンドン経由でパリへ飛ぶ」の意味であるが、この例文の中で via(英語の発音はヴァイア)は、「by way of(~経由で)」の意味を持つ前置詞としての役割を持っている 。

「旅」は英語でtourともいう。日本語でも「ツアー」として知られる言葉である。語源はギリシア語のトルノス(tornos)で、円を描く大工道具(コンパスのようなもの)のことであった。「回転する(させる)」を意味する英語のターン(turn)と語源は同じである。トルノスに含まれる「回転」のイメージは、「各地をぐるりと回って旅する」周遊(=ツアー)のイメージにつながっていく。

「旅」を表す英語には journeyもある。元来は「一日の行程、仕事」を意味したが、さらにルーツを探るとラテン語で「一日」を意味するdies の形容詞形 diurnus (一日の)にたどり着く。英単語の diurnal (毎日の)は、今触れたラテン語の綴り字をほぼ忠実に保持している。「日誌」を意味するjournal(ジャーナル)やその派生語 jounalist (ジャーナリスト=新聞雑誌業者)も、語源は同じである。おなじみの diary (ダイアリー)も、dies (一日)から派生したラテン語diarium (ディアーリウム)に遡る。このラテン語も「日記」という意味をもっていた。

少し意外に感じられるが、アナログ電話のダイアル(dial)の語源も同じくdiesである。dial は「時計の文字盤」を意味すると同時に「日時計(sundial)」の意味も持つ。元来は「一日を示す盤」の意味であったが、電話の文字盤と時計の文字盤は見た目のイメージが重なるので、そう呼ばれるようになった。

初めに触れたように、英語の travel は語源の上で「苦労、苦しみ」と関連している。日本のことわざにも「かわいい子には旅をさせよ」という表現があり、旅そのものが苦しみであるという発想は、日本の文化にも認められるといえる。が、こと子育てに関していえば、「かわいい子ゆえに旅をさせない」親が少なくないのが日本の実情かもしれない。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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