決意と咀嚼

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決意と咀嚼

たとえば「新年の決意」を英語で訳せば、New Year resolution となる。 この resolution(レゾリューション)とは、元来どういう意味だろうか。

レゾリューションといえば、モニターの「解像度」を表す言葉でもある。resolution の動詞形は resolve で、「(化合物などを)分解する」という意味を持つ。 これは、solve(解く、解決する、解答する)と solution(溶解、解決、解答)の関係と同様である。 これらの英語の語源としては、ラテン語の resolutio, resolvo, solvo, solutio があげられる。 また、その元には「ゆるめる」という意味を持つギリシア語のルエインという動詞がある。

ここで興味を引くことは、ラテン語の resolutio には「決意」というニュアンスがない点である。 事物を「分解する」プロセスは、問題を「解決する」プロセスとイメージの上で重なるが、「決心をする」こととは直接関係をもたないように感じられる。

では、元来「ゆるめる」という意味をもつ resolvo というラテン語は、なぜ英語のresolve において、「決意を固める」というニュアンスをもつようになったのか。 少し空想してみよう。たしかに「ゆるめる」と「固める」は、正反対のイメージであるが、それは結果としてそうなるのである。

我々は自分の置かれた状況を「分析」し、抱えている問題点を細かく「分解」してみることで、「よし、これでいこう」と決意を「固める」のではないだろうか。 他方、精神を「ゆるめる」こと、すなわち心をリラックスさせた結果として、何か大きな決意が生まれる、と考えることもできるかもしれない。

しかし、お屠蘇気分でぼんやりと思いついた「新年の決意」ほど長続きしないものはない。物を食べる上で、歯による「咀嚼」が必要なように、実りある「決意」を行うためには、精神による緻密な問題の「分析」が不可欠である。すなわち、英語の resolution に認められる「弛緩」のイメージは、精神のそれを意味するのではなく、取り組む問題の「分解」、「分析」作業を示唆するのではないだろうか。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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