ローマの詩人ルクレーティウスは、『事物の本性について』第2巻で、天と地の交わり(文学の伝統上、「聖婚」とよばれるテーマ)を次のように描いています(DRN.2.991-997)。
こうしてわれわれはみな、天空の種子から生まれ出ている。
天空はすべてのものにとって等しく父であり、そこからしたたる
水の雫を、養いの母なる大地は受け取って
みごもったのち、豊かな穀物や稔り多い果樹、
そして人類を生む。また大地はあらゆる類いの野獣を生み、
食物を与える。すべてのものはそれで体を養い、
快い生を営み、子孫を増やす。
訳は、小川正広氏のものです。同氏は、この箇所について『ウェルギリウス研究』(京都大学学術出版会、p.389ff.)の中で次のように解説しておられます。
「ルクレーティウスでは万物を生み養うのは「大地」であり、他方ウェルギリウスでは、「すべての生命の芽を養い育てる」のは「天空の神」である。この違いは両詩人の自然観の相違を示すが、「聖婚」の全体的なイメージについては互いに似通っている。
さらにルクレーティウスは上の箇所で、大地が「快い生」(dulcem uitam [997])、つまり平和で穏やかな生活をもたらすことを強調していたが、ウェルギリウスもそのことを、「春の賛歌」の結びで語っている、と。
(ギリシア神話における、大地の誕生、大地(ガイア)と天(ウラノス)のまじわりについては、ヘシオドスの『神統記』の叙述が参考になります)。
ウェルギリウス研究―ローマ詩人の創造
小川 正広