英作文の考え方

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英作文の考え方

難しい日本文は,難しい英語で処理するのでなく,簡単な英語で書く.これは「言うは易く,行うは難し」である.正確に言えば,基本の鍛練ができていないから,実行しようにもできないことが多い.例えば「人間が月へ旅行できる日も遠い先の事ではないだろう.」という日本文について.ある問題集の模範解答には,It’ll not be long before man can make a trip to the moon.と書いてある.

私なら,We can travel to the moon soon.でもマルにするだろう(soon→at onceは不可).ただし,moon soonは語調が少し悪いので,before longと書いた方がよいかもしれない.こう言うと多くの諸君は気にする.「それで本当に正解か?」と.だが,中学と高校で6年間英語を習いながら,どれだけの生徒が上にあげた問題集の模範解答をそのまま「自力で」書けるのか.また,一体何人が,私の書いた簡単な答え方に気付き,かつその答えを正しく書ける(話せる)のか.

私の経験では,The people are going to the moon traveling day not far…的な答えばかりだ.これでは,英語が話せるはずもない.会話とは 「瞬間的に」英作文をし,それを口に出す作業だから.

ではこれからどうすればよいのか.まず,上の問題の考え方についてちょっとしたヒントを述べる.簡単な英語で書くためには,与えられた日本文を簡単な日本文に直すことである.私の場合は問題文を,「私たちはまもなく月に旅行ができるでしょう」と考えたわけだ.この日本文なら,何とか答えを書く気になるだろう.

しかし本当に,この程度の日本文なら正しく英語に直せるのだろうか.つまり中学校で習う程度の英語なら,自由に英作文ができるのだろうか.例えば, We can to travel…や,We will can travel..では話にならない.私が中学レベルの英語にこだわる理由がここにある.

我々の英作文は,アメリカ人にとっての日本語作文に当たる.ここで,今の問題を,アメリカ人の立場に立って考えてみることにしよう.上で考えたことは,アメリカ人の場合に直すと,It’ll not be long…の文(彼にとっては難しい母国語)を,「人間が月へ旅行できる..」式の日本語(彼にとっては難しい外国語)に直すべきか,「私たちはまもなく..」式の日本語(彼にとっては簡単な外国語)に直すべきか,という問題と同じである.

私の提案したことは,このアメリカ人が,与えられた英文をよく読んで,We can travel to the moon before long.(簡単な母国語)と直し,それを「私たちはまもなく...」(簡単な外国語)に直せばいいと主張していることと同じである.

さて諸君は日本語を十分理解できる者として,彼の答案を採点できる立場にいる.It’ll not be long before man can make a trip to the moon.という英文を,「私たちはまもなく月に旅行ができるでしょう」と訳したアメリカ人の答案を「簡単すぎる!」として,バツにするだろうか.また,日常会話をしゃべりたいと思っているアメリカ人は,果たして「人間が月へ旅行できる日も遠い先の事ではないだろう」という日本語を覚える必要があるのだろうか.まずは,簡単な表現を確実にこなしてもらいたい.(「目と鼻の先」と言うより「とても近い」と言えばよい.→アメリカの日本語テスト

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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