アメリカの日本語テスト

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アメリカの日本語テスト

アメリカにおいて,大学入試に日本語があると仮定しよう.

Johnは中学校1年生の時から日本語を学び,今大学に通っているが,未だに日本語の勉強がはかどらない.中学時代は多少日本語に興味を持ち,漢字なども結構覚えたし,『日本昔話』のいくつかは教科書で読んだ記憶もある.

だが高校に入ると,いきなり文法の授業で「ケーヨードーシ」とか「レンタイケー」とか聞いたことのない専門用語が毎回出てくるのには参った.おまけに読解の教科書では2年生になると,朝日新聞の「テンセージンゴ」等の文章にも取り組まねばならず,テストでは散々な結果だった.だが,大学入試の日本語の読解問題は,大体この程度のレベルの文章が毎年出題されるのだ.

今日の模擬試験にも,次のような書き出しで始まる日本文が出題された.

<問1>
「過去五年の間に起きた旧世界秩序の崩壊は,一体全体,私たちをいずこへと導きつつあるのだろうか.ひところ「(1)」と豪語してはばからない保守派論客が,わが国の論壇で幅を利かせていた.…」
(1)には次から選ぶことになっていた.
(イ) 社会主義の崩壊は資本主義の勝利である.
(ロ) 社会主義の勝利は資本主義の崩壊である.
(ハ) 資本主義の崩壊は社会主義の勝利である.
(ニ) 資本主義の勝利は社会主義の崩壊である.
試験では(イ)か(ニ)かまではわかったけれど,時間がなくて(ニ)にした.答えは(イ)だったけれど,二つの選択肢にどういう違いがあるのか未だによくわからずにいる.

穴埋め問題は,日頃「試験によく出る日本語熟語」を丸暗記しているが,いつもできないで困っている.今日の問題はこんな感じだ.

<問2>空欄に入れるべき漢字を選び記号で答えよ.
1.私は彼に会える日を( )を長くして待つ.(1)手(2)頭(3)鼻の下(4)首
2.いつか腹を( )話す必要がある.(1)たたいて(2)さすって(3)割って(4)立てて

1.は(1)か(3)で迷って(3)にした.答えは(4)であった.絶対(4)のはずはないと思った.なぜなら何か欲しいものがあれば手を伸ばそうとするが,(4)だと化け物のようである.(3)にしたのは,熟語集で「鼻の下を長くする」という表現があった気がするからだ.

2.は(4)にした.これも熟語集に「腹を立てる」という言い方が載っているからだ.(3)は漢字の読み方がわからなかっただけで,「わって」と書いてあれば,できたと思う.しかし(4)でもいいのではないだろうか?

最後は日本語作文の問題だった.

<問3>次の英語を日本語に直しなさい.
He is not so much a scholar as a writer.
模範解答は「彼は学者というよりもむしろ文人だ.」となっていたが,文人は作家でもよいそうだ.はずかしながら,私の答えは「彼は作家ほど多くの先生ではない.」というもので,もしかすれば部分点は期待できるかもしれないと思っている.

日頃Tom先生は,基本をやかましく言う.中学校時代に習った勉強が大切だといつも言っている.そう言えば,先日も「象は鼻が長い」と「象の鼻は長い」の違いを説明してくれた.また問題集として,高校入試の問題をやり直すよう言われたが,これが結構難しいのだ.

例を挙げる.空欄補充の問題だ.

1.私は毎朝6時( )起きる. (1)は (2)に (3)を (4)で
2.彼は彼女( )背が高い. (1)と (2)に (3)より(4)も
3.父は1時間( )戻ります. (1)と (2)に (3)で (4)を
4.父が部屋に入ってきた( ),私は本を読んでいた. (1)ので (2)から (3)とき(4)が      
先生によるとこれらの問題の正解率は,平均的大学受験生で6割くらいだそうである.また正解に満足せず,この手の問題はすらすらできないと,日本語は読めないともいっておられた.さらに耳に痛いのは,英語だけで出されても,きちんと日本語に作文できるところまで暗記せよとおっしゃる.さらにこの程度の日本語でいいから,身近なことをいつも日本語で考える癖をつけよとも.

昨日は,

1.I get up at six every morning. 2.He is taller than she. 3.My father will be back in an hour. 4.When my father entered the room, I was reading a book.…
といった英語だけが書かれたプリントを配ってテストされた.50問のテストだったが,クラス20名のうち満点は1人だけ,平均は50点中28点であった.

ところで今日の問題を先生に見てもらった.読解の(1)を聞くと,やはり(イ)が正解だそうである.私は「旧世界」という表現の意味がよくわからなかったが,先生によると,「旧」と「世界」を切って意味を考えるとよいそうだ.「旧」を辞書で引くと,oldとある.「世界」は中学で習った単語だから知っている.

だが問題は,内容の理解だそうである.上の引用だけで,この筆者は「保守論客」の主張に対してどのような見方(賛成か反対か)をしているかを見抜かないといけないらしい.私は何となく反対している気がしたのでそう述べると,「その通り.ほら,この文の先を読んでいくと,「…こうした素朴な歴史観の持ち主に対しては,次のような反論を加えておけば十分であろう.」とある.読解の秘訣は予測しながら読んでいくことだよ.」とおっしゃった.何だか「国語」の勉強みたいだなと思った.

さらに先生によれば,今回の文法問題は,純粋な文法問題ではなく,むしろ単語の意味を問う問題だったそうで,必ずしも全部できなくてもよいそうだ.それを聞いてほっとする.先生にも,知らない日本語の表現はたくさんあって,授業で正解を教えるために辞書を引くことはしょっちゅうあるそうだ.

先日私の受けた全国模擬試験には,漢字の書き取りで,(1)「かんぜんちょうあく」(勧善懲悪)や(2)「ぎしんあんき」(疑心暗鬼)といった難しい問題がたくさん出て物議をかもしたが,先生によると,「私もこんな漢字は書けないさ.日本人の中にもひょっとしたら書けない人もいるかもしれないよ.」とのことである.

さて,作文の問題は,私の答えだとたぶん零点だろうとのこと.簡単に言えば,「彼は学者ではなく作家である.」と書いても正解だそうだ.これならできそうだと言ったら,たいていの生徒の答えは「彼は作家でなく学者だ.」としてみたり,「彼が生徒ではなく先生だ.」などとするミスが続出し,正解者はほとんどいないという話である.

「だから日本語作文は合否に影響はあまりないともいえるね.だけどこの程度の問題なんだから,何とか点数をもらおうと頑張ることもできるんじゃないかな.」と言っておられた.

どういう勉強が有効かを尋ねると,「基本的なことを押さえたら,あとは自分が感動した文章をまるごと暗記したり,まとまった文章を日本語で書いてみたりすることだね.日記を日本語でつけたら,簡単なことでも知らない単語がたくさんあったことに気づくだろう.テストには出ないけどね.」

「「覚えろ」といわれて覚えたものはすぐに忘れるから無理は禁物.思ったより簡単な日本語でじゅうぶんだから,たくさん読んだり,書いたり,機会を見つけて日本語を話したりしたらいい.一番いいのはもちろん日本に行くことに決まってるさ.ボクなんかは,どうしたら日本語を好きになるかについては話せるけれど,本当は君たちに日本語を教える資格があるかいつも悩んでるんだ.まっ,日本語に限らず,やる気さえあれば,言葉なんて自分で勉強できるってことさ.」

「それはそうと,ついこの間,新聞に日本の高校入試の英語の問題をアメリカの高校一年生が解いた結果が発表されていたけど,平均何点だったと思う?なんと50点ちょっとだったんだ!日本だとこれじゃ高校に入れないそうだよ.いちど日本の大学入試の英語の問題をみてみたいものだね.」

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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