『詩集』第1巻第3歌
カトゥッルスの『詩集』第1巻第3歌は次のような詩です。訳と共にご紹介しましょう。
Lugete, o Veneres Cupidinesque,
et quantum est hominum venustiorum:
passer mortuus est meae puellae,
passer, deliciae meae puellae,
quem plus illa oculis suis amabat. 5
nam mellitus erat suamque norat
ipsam tam bene quam puella matrem,
nec sese a gremio illius movebat,
sed circumsiliens modo huc modo illuc
ad solam dominam usque pipiabat. 10
qui nunc it per iter tenebricosum
illuc, unde negant redire quemquam.
at vobis male sit, malae tenebrae
Orci, quae omnia bella devoratis:
tam bellum mihi passerem abstulistis 15
o factum male! o miselle passer!
tua nunc opera meae puellae
flendo turgiduli rubent ocelli.
悲しんでくれ、おお愛と欲望の神々たちよ、そして心に優しさを持つ人々よ。私の恋人の雀が死んだ。彼女のかけがえない愛し子、目に入れても痛くないほど可愛がっていた一羽の雀が死んだ。
蜜のように愛らしく、自分の主人をよく知っていた。少女が母親に甘えるように、私の恋人になついていた。彼女の膝の上から離れようとせず、あちこち向きを変えては飛び跳ねる。ちゅんちゅん鳴くのは、彼女に対してだけだった。
それが今や漆黒の道を通り、誰も引き返すことのできない場所へと向かっていく。呪われよ、オルクス(冥界)のいまわしい暗闇よ、美しい命をみんな飲み込んでしまう暗闇よ。
ああ、何という悲しい出来事だろう。ああ、可哀想な雀よ。今やおまえを悲しむあまり、私の恋人は泣きはらし、腫れた目が真っ赤になっている。
(コメント)
カトゥッルスがここで描く世界は、当時のローマではたいへん奇異に映った可能性があります。 現実のローマの政治や戦争をテーマとした詩(叙事詩が扱う)を大きい詩とみなしますと、カトゥッルスの得意とする形式は「小さい詩」に他なりません。
この大小のジャンルの違いについて、カトゥッルス自身強く意識していました。 手本としてヘレニズム時代の学者詩人カッリマコス(前3世紀にアレクサンドリアで活躍)を念頭に置いていたとされます。
カッリマコスは、ホメーロスに代表される叙事詩を最高の文学形式とみなす伝統に異を唱え、もてる学識をふんだんに盛り込んだ「小さい」けれども彫琢を加えた詩の価値を主張しました。