Ignis aurum probat; miseria fortes viros. 火は黄金を試す

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Seneca
セネカ

語彙と文法

「イグニス・アウルム・プロバト。ミセリア・フォルテース・ウィロース」と発音します。
ignis は「火」を意味する第3変化の男性名詞・単数・主格で、文の主語です。
aurum は「黄金」を意味する第2変化の中性名詞・単数・対格です。probatの目的語です。
中性名詞は主格と対格が同じ形になるため、aurumを主格とみなすことは可能ですが、その場合probatの目的語が見つかりません。
probat は「証明する」という意味の第1変化動詞 probō,-āreの直説法・能動態・現在、3人称単数です。
「火は黄金を証明する」という意味になります。
後半の miseria は「悲惨」を意味する第1変化 miseria,-ae f.の単数・主格で、文の主語です。
fortēsは「強い、勇気ある」を意味する第3変化形容詞fortis,-e の男性・複数・対格です。
virōsは、「男、英雄」を意味する第2変化名詞vir,virī m. の複数・対格です。
後半の文に動詞が見当たりません。前の文のprobatが省略されています。
「悲惨は(miseria)勇気ある(fortēs)男を(virōs)証明する(probat)」と訳せます。
「悲惨(な出来事)は(真の)勇者を証明する」という意味です。
セネカの言葉です(『摂理について』5.9)。

Ignis aurum probat.について

本物の黄金は炎をものともしないように、勇気ある人間はどんな苦難も雄々しく耐えることができる。困難や不幸は人間の勇気を試す試練である、という主張です。

疾風に勁草(けいそう)を知る」という言葉と相通じるところがあります。

神の摂理が存在する中、災厄はなぜ善人にも訪れるのか。セネカはこの問いに対し、安穏とした日々は人間をダメにする、神は精神を鍛えるために試練を与えているのだ、と説きました。

それは家庭で父が果たす役目と同じであるとも。

「父は子に早朝から勉学を命じ、休日にもダラダラさせない。汗を、時には涙を溢れ出させる。だが母は子を懐に抱き、日陰にとどめようとする。決して悲しまぬよう、決して泣かぬよう、決して苦労せぬように願う」。

父の愛は「可愛い子には旅をさせよ」、母の愛は「可愛い子ゆえ旅をさせたくない」という気持ちと同じです。現実の苦難を説明するさい、父母の愛を例に出すところが斬新です。母性愛に包まれた平和な日々は幸福に見えて、それだけでは脆弱です。

セネカいわく、「損なわれたことのない幸福は、どんな打撃にも耐えられない」。国づくりの基礎は人づくり。過保護、過干渉は国をダメにする。セネカの言葉は日本の教育に警鐘を鳴らすもののようにも感じられます。

文献案内

怒りについて 他二篇 (岩波文庫)
セネカ 兼利 琢也

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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