『農耕詩』第3巻序歌(訳)

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『農耕詩』第3巻序歌の訳を紹介します。

3.1-2
Te quoque, magna Pales, et te memorande canemus
pastor ab Amphryso, uos, siluae amnesque Lycaei.
偉大なるパレース*よ、あなたのことも歌おう。またあなたのことも、アムプリュスス川のそばで名を馳せた牧人*よ。あなたがたも、リュカエウス山*の森と川よ。

パレース: 牧人と家畜を守る古いイタリアの女神。第3巻は家畜の世話を主題とする。
牧人: アポッロー。
リュカエウス山: アルカディアの山の名。

3-5
cetera, quae uacuas tenuissent carmine mentes,
omnia iam uulgata: quis aut Eurysthea durum
aut inlaudati nescit Busiridis aras?
空虚な心を歌によって魅了したはずの他のすべての主題は、もはやありふれたものとなった。だれが残酷なエウリュステウス*や、悪名高いブーシーリス*の祭壇を知らないだろうか。

エウリュステウス: ミュケーナイ王。ヘーラクレースに12の難行を課した。
ブーシーリス: エジプト王。外国人をゼウスの祭壇に犠牲として供した。

6-9
cui non dictus Hylas puer et Latonia Delos
Hippodameque umeroque Pelops insignis eburno,
acer equis? temptanda uia est, qua me quoque possim
tollere humo uictorque uirum uolitare per ora.
だれが、少年ヒュラース*やラートーナのデロス島、ヒッポダメイアや、象牙の肩で名を馳せ、馬を駆っては猛々しいペロプス*の話を語らなかったか。 だから私は道を試みなければならない。そこを通り、私もまた地上から持ち上げられ、勝利者 として人々の口の間を飛び回ることができるような道を。

ヒュラース: ヘーラクレースの侍童。
ラートーナ: アポロンとディアーナの母レートー。
ペロプス: タンタルスの子。

10-11
primus ego in patriam mecum, modo uita supersit,
Aonio rediens deducam uertice Musas;
私は命がつづくかぎり、最初の人として、祖国に私といっしょにムーサたちを、アオニアの山頂*から連れて帰還したい。

アオニアの山頂: アポッローとムーサの山、ヘリコーン山。

12-15
primus Idumaeas referam tibi, Mantua, palmas,
et uiridi in campo templum de marmore ponam
propter aquam, tardis ingens ubi flexibus errat
Mincius et tenera praetexit harundine ripas.
最初にイドゥマエアの棕櫚(しゅろ)の葉*をマントゥア*よ、おまえにもたらそう。そして緑の野の中に、大理石でできた神殿*を川のほとりに立てるのだ。そこでは偉大なミンキウスがゆっくりと蛇行し、ほっそりした葦によって川岸を覆っている。

イドゥマエアのシュロの葉: イドゥマエアはパレスチナ地方南部の地。棕櫚の葉は「勝利」を表す。
マントゥア: 北イタリアの都市。ウェルギリウスの故郷。
神殿: 『農耕詩』の後に着手する叙事詩をさす。cf.R.D.Williams 他。これを「ヘシオドスの作品をローマ化した『農耕詩』それ自体を表わすメタファー」(小川)とみなす立場もある。

16-20
in medio mihi Caesar erit templumque tenebit:
illi uictor ego et Tyrio conspectus in ostro
centum quadriiugos agitabo ad flumina currus.
cuncta mihi Alpheum linquens lucosque Molorchi
cursibus et crudo decernet Graecia caestu.
神殿の中央には、わがカエサル*の像を置こう。カエサルを神殿の主神とするのだ。彼のために、私は勝利者としてテュロス*の緋色の衣をまとい、一際(ひときわ)目立つ格好で、四頭立て馬車を百乗川に沿って走らせよう。ギリシア人は、こぞってアルペーウス川*とモロルコスの聖林を去り、徒競争や粗野な皮手袋の戦いで勝負を挑むだろう。

カエサル: オクタウィアーヌス。後のアウグストゥス。
テュルス: ポエニキア(フェニキア)の都市。紫の染料の産地。
アルペーウス川: ペロポネソス半島の川。オリュンピア競技祭を暗示する。
モロルコス: ヘーラクレースを歓待した牧人。ネメア競技祭を暗示する。

21-5
ipse caput tonsae foliis ornatus oliuae
dona feram. iam nunc sollemnis ducere pompas
ad delubra iuuat caesosque uidere iuuencos,
uel scaena ut uersis discedat frontibus utque
purpurea intexti tollant aulaea Britanni.
私自身は、刈り取ったオリーヴの葉で飾られて、捧げものを贈ろう。今や厳かな行進を神殿まで導き、ほふった子牛を見ることは楽しいことだ。あるいは、いかに舞台の正面が回転し目の前から消えるのか、また、いかに幕に縫い込まれたブリタンニア人が緋色の幕を持ち上げるのか、これらを見ることも実に楽しい。

26-29
in foribus pugnam ex auro solidoque elephanto
Gangaridum faciam uictorisque arma Quirini,
atque hic undantem bello magnumque fluentem
Nilum ac nauali surgentis aere columnas.
神殿の扉には、黄金や稠密な象牙を用いてガンジス川の民族*との戦いと、ローマ人の勝利の戦さを彫り刻もう。そこには戦(いくさ)で波立ち、雄大に流れるナイル河と、青銅の船首高く聳える柱楼も加えよう。

ガンジス川の民族: インド人。

30-33
addam urbes Asiae domitas pulsumque Niphaten
fidentemque fuga Parthum uersisque sagittis;
et duo rapta manu diuerso ex hoste tropaea
bisque triumphatas utroque ab litore gentis.
アジアの敗れた諸都市や敗走するニパーテース*、逃亡と振り向きざま矢を放つことに自信を持つパルティア人、東西*二手に分かれた敵から腕付くでもぎとった二つの勝利の記念碑、二度武力に屈した両岸の部族も加えよう。

ニパーテース: アルメニアの山。
東西: オクタウィアーヌスの東方と西方の勝利を暗示する。東方の勝利は、アントニウスとクレオパトラに対する勝利。

34-36
stabunt et Parii lapides, spirantia signa,
Assaraci proles demissaeque ab Ioue gentis
nomina, Trosque parens et Troiae Cynthius auctor.
パロス島の大理石で作った像、息をする像も建つだろう。アッサラクス*の末裔、ユピテルの血を引く種族の名、われらが父祖トロース*とトロイアの建設者キュントゥスの神*の像もだ。

アッサラクス: トロイア王。アンキーセースの祖父。
トロース: アッサラクスの父。
キュントゥスの神: アポッロー。アポッローは海神ネプトゥーヌスとともにトロイアの城壁を築いた。

37-39
Inuidia infelix Furias amnemque seuerum
Cocyti metuet tortosque Ixionis anguis
immanemque rotam et non exsuperabile saxum.
不幸な羨望を持つ者は、復讐の女神と残酷なコキュトゥス川*を恐れるがよい。イクシーオーン*の体に巻き付いた蛇や、巨大な刑車、永遠に克服できない岩*をも恐れるがよい。

コキュトゥス川: 冥界の川。
イクシーオーン: ラピタイ族の王。ユーノーを犯そうとしユピテルの怒りにふれる。
岩: シーシュポスの岩。

40-41
interea Dryadum siluas saltusque sequamur
intactos, tua, Maecenas, haud mollia iussa:
その間、私はドリュアス*の未踏の森や林間の空き地に分け入ろう。マエケーナース*よ、あなたの出した容易ならざる命令に、私は取り組もう。

ドリュアス: 森のニンフ。木の精。ルクレーティウスの『事物の本性について』1.927以下との関連が指摘される。
マエケーナース: ウェルギリウスやホラーティウスなどの文人の後援者として名高い。

42-45
te sine nil altum mens incohat. en age segnis
rumpe moras; uocat ingenti clamore Cithaeron
Taygetique canes domitrixque Epidaurus equorum,
et uox adsensu nemorum ingeminata remugit.
あなたがいなければ、私の心はこれほど高邁なことを企てなかっただろう。さあ始めよう。間延びした遅延は打ち破るのだ。キタエローン山*が大きな叫び声で呼んでいる。タイゲトゥス*の犬たちや、馬を飼い慣らすエピダウルス*も。その声は森の同意と響きあい、音を返してよこすのだ。

キタエローン山: ボイオティアとアッティカの境にある高い山脈。
タイゲトゥス: ラコニア西部の山脈。タイゲトゥスの犬とはスパルタの猟犬を意味する。
エピダウルス: アルゴリスの町。

46-48
mox tamen ardentis accingar dicere pugnas
Caesaris et nomen fama tot ferre per annos,
Tithoni prima quot abest ab origine Caesar.
しかし、やがてカエサルの燃え上がる戦いを語る準備をしなければならない。カエサルがティトーノス*の最初の出生から遠く離れている、それだけ長い年月にわたり、私は彼の名声を今後は噂によって運び伝えるのだ。

ティトーノス: 曙の女神の夫。

牧歌/農耕詩 (西洋古典叢書)
ウェルギリウス 小川 正広
4876981515

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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