Ubi sunt? 彼らは何処

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語彙と文法

「ウビ・スント」と読みます。
ubiは「どこに?」という意味の疑問副詞です。
suntは不規則動詞sum,esse(いる、ある)の直説法・現在、3人称複数です。
「彼らは(今)どこにいるのか?」と訳せます。

「彼ら」とは誰でしょう?死んだ人たちのことです。このとき「メメント・モリ」のバリエーションとも解釈できるでしょう。

解釈

亡くなった人に思いを馳せる慣用句です。「彼らは今どこにいるのか。もうこの世にはいない」と意訳できます。彼らとは誰か?それはこの言葉をつぶやく一人一人が自分の心の中で決めることになります。天に召された肉親のことでもいい。歴史を飾った有名な人たちでもいい。死は誰にでも平等に訪れ、自分もいずれはこの世を去ります。

人間は死んでどこに行くのでしょうか。ローマの詩人ウェルギリウスは、死者の住む地下の冥界を描いています。生前悪いことをした人は地獄のような場所で罰を受けます。よい行いをした人は「エリュシウムの園」(シャンゼリゼ)に住みます。地獄も極楽も地下にあるという発想が面白いです。

それに対し、キケローは、ローマの偉人たちが死後宇宙の高みに住んでいることを示唆しています。あるローマの英雄が孫の夢枕に現れ、宇宙のとある場所から小さな地球を指さしつつ、真の誉れが何であるかを語ります。あの小さい星のシミに見えるのがローマだ、宇宙の時間に比べ地上の人生など一瞬に過ぎない、ちっぽけな名誉など気にかけるな、と喝を入れます。

死後の世界について誰も確かなことはわかりません。ただ言えることは、亡くなった「彼ら」は今も呼べば心の中に蘇るということ。とすれば、我々も行いと言葉を通じて死後も誰かの記憶の中に生きると言えるのかもしれません。

ウェルギリウスは『アエネーイス』第6巻後半で、キケローは『国家について』第6巻(「スキーピオーの夢」)の中で語っています。
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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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